今までロボットの試作はUP300と言う3DプリンタとABS素材を使用してきましたが、今後の展開も考慮してヘッドが2つありプラットフォームの広い新しい3Dプリンタを導入することにしました。新しい3DプリンタはRaise3D Pro3と言う機種です。
また使用する材料もABSとPLAを実際に印刷して比較を行いました。その結果PLAに変更することにしました。今回はそのABSとPLAの違いについてです。
素材特性の違い
ABSもPLAも3Dプリンタの材料としてはごく一般的なものです。特殊な素材を混合した場合を除いて一般的なABSやPLAを評価する「0(低評価)~5(高評価)」と表のようになるようです。
| PLA | ABS |
強度 | 3 | 2 |
剛性 | 3 | 2 |
耐久性 | 3 | 2 |
造形性 | 4 | 3 |
耐熱性 | 0 | 2 |
耐薬品性 | 0 | 1 |
PLA、ABSともに「熱可塑性樹脂」と呼ばれるものなので熱を加えると溶けて柔らかくなります。その性質を利用して3Dプリンタで印刷することができるのですが、どちらもその性質上耐熱性は高くありません。PLA はABS と比較してもガラス転移点(柔らかくなる温度)が55℃でABSの場合はもっと高くて100℃になります。一般的な室内では40℃を超える環境は無いと思いますので室内用途であればどちらも使用することができますが、造形物の内部に熱源が有る場合は注意が必要です。また、造形後の収縮はPLAの方がABSより少ないので造形後の反りはPLAの方が少なくなります。
強度と剛性は密接に関係していてPLAの方がABSより硬くなります。ABSはPLAより柔らかい分弾性があるので耐衝撃性(ぶつけたり落としたりした際の耐久性)ではPLAよりABSの方が高くなります。
PLAは植物由来の原料を使用していて生分解性があります。また空気中の水分を吸収して加水分解するので長期に渡る使用には不向きとされています。
(長期に使用した経験が無いのでどのくらい使用できるのかは分かりませんが)
ABS 耐久性はあるが印刷時に反りやすい
PLA 硬くて反りにくいが耐久性には劣る
サポート材除去のしやすさについて
材料と共にプリンタも変わっているので材料の性質なのか3Dプリンタの影響なのかが分かりにくい所もありますが平面などはPLAの方が奇麗に造形できるような気がします。またパーツを組み合わせる際にPLAはABSに比較するとたわまないのでねじ込んだりするのに苦労しました。
3Dプリンタで造形後に不要なサポート材を除去する際にはPLAはパキと言う音とともに折れるような感じでサポート材が取れますがABSはパーツとサポート材の接合部が折れ曲がってから取れるような感じです。PLA の方が圧倒的に靭性が無いような感じです。
またPLAではサポートと接触していた所のエッジ部分にわずかな突起のようなバリが残ります。肉眼で見ても良くわからないのですが、爪などでひっかいて見ると出っ張りが有るのがわかります。ABSでは靭性が有り繰り返し折り曲げてサポートを除去するため為、そのような所はサポートが少し残っていたりするので分かりやすいですがPLAでは見た目が奇麗に取れているので分かりにくいです。ただしPLAでもABSでも軽くヤスリがけすれば奇麗に取ることができます。
写真のパーツは印刷時には今見えている面が下になってサポート材が付いていた面です。赤で囲っている所に微妙にバリが出ていたのでヤスリで面取りしています。
ABS 柔らかくサポートは除去しやすい
PLA 硬くて肉眼で見えにくいバリが残る
下穴のあけ方の違いについて
試作ではパーツを組み合わせるのにタップビスを使用しています。ABSで試作していた際にはタップビス用の穴は一般的なタップビスの下穴より若干(0.1mm)程度小さくしてちょうど良いくらいでしたが、PLAは硬い為に下穴を逆に0.1mm程度広くとる必要がありました。使用しているタップビスがM2~M2.5位の場合、PLA では無理にねじ込むとタップビスが折れると言うことが何度が有りました。また同じサイズ下穴でも造形方向によって硬くて入りにくい場合が有りました。これはFDM方式の3Dプリンタでの造形物にはどうしても異方性(印刷方向による強度の違い)が出てしまうためだと思います。ABSの時には特に方向による違いが感じられなかったのはABSが比較的柔らかい為だと思います。
経験的には積層方向に垂直に開ける穴は大きめに横方向に開ける穴は小さめにする必要がありました。これは3Dプリンタの造形時のパラメータによっても変わると思います。
ABS 下穴は小さめに
PLA 下穴は大きめに
素材の接着しやすさについて
PLA は接着に向かないと言う話も聞くことがありましたが高純度のアセトンで試してみたところ非常によく接着することができました。ABSもアセトンでしっかり接着することができます。PLA もABSもアセトンを使用した場合は接着と言うよりはアセトンで溶かして付けるので溶接と言う感じでしょうか。アセトンの他にアクリルサンデー用の接着剤も使用することができるようです。
材料はPLAで写真の矢印が指している溝にアセトンを流して接着しています。接着時にアセトンが流れた所のPLAが溶けた様子がわかると思います。アセトンが乾いた後は非常に硬く付いています。
ABS、PLA どちらもアセトンでOK
研磨の行いやすさについて
またヤスリがけもPLAやABSは向かないと言われますがどちらも簡単にヤスリがけをすることができます。金属用のヤスリでも紙ヤスリでも研磨ができますが、PLA に比べるとABSの方が弾力があるためにABSの方がヤスリがけしにくいです。
ただしどちらの素材もそれほど固くはないので金属用ヤスリを使用する際には気を付けないとヤスリが当たった所に傷をつけやすいです。
紙ヤスリを使用する場合は荒削りには180番か240番位で良いと思います。それほど滑らかに仕上げなくても良ければ240番で仕上げでも良いと思いますがその後に600番程度で奇麗に仕上げることができます。
FDMタイプの3Dプリンタの場合、材料を溶かして糸状にして積層していくのでヤスリで研磨しても奇麗な表面にならずに多少の積層痕が残る場合があります。その場合は3Dプリンタでの印刷の際に密度を高くするか塗装用サーフェーサー等で表面を滑らかにしてから細かいヤスリで研磨して表面を仕上げる必要があると思います。
左の写真はPLAで印刷して仕上げをしていない状態です。丸い穴の周りなどに積層の跡が結構残っています。
こちらは204番の紙ヤスリで仕上げた状態です。この状態にするまでに約30分ほどの時間がかかっています。まだ積層の跡が残っていますがほとんど目立たなくなりました。
この状態で終わっても良いのですが、黒のPLAを紙ヤスリで研磨すると研磨しきれなかった溝の部分が白っぽく残ってしまいます。目立たなくするにはさらに細かい番手のヤスリで表面を研磨して溝を無くすか塗装する必要があります。
また研磨すると以外に深く削れてしまい厚みがなくなってしまうので研磨するのであれば設計時にその分の厚みを考慮する必要があります。
ABS、PLA どちらも比較的簡単
いろいろと印刷をしているうちにノウハウも蓄積されてきましたし3Dプリンタも新機種を導入して印刷効率もあがり試作機もハードは完成し現在はソフトウェアの強化を行っています。近いうちに完成のご報告ができると思います。
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